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『メタルサーガ~砂塵の鎖~』も発売されて数ケ月。開発当時を振り返り、メインスタッフのメンバー各氏に集結いただき、当時を振り返りつつ、未来への展望を語りあって頂いた。フアン必読の、未公開エピソードも多数飛び出したぞ!
――ではまず、『メタルサーガ』企画を立ち上げられたきっかけについて、伺いたいと思います。
永嶋:言い出しっぺは僕です。始まりは単純で、うちのモパイル事業で、『マジカルドロップ』など、データイーストさん(※01)のタイトルを移植してまして、たまたまそちらから、データイーストさんのライセンス担当会社を紹介してもらったんです。
そのとき、いろいろなゲ一ムを復活させましようという話になり、僕が『メタルマックス』(※02)ファンだったので、どうですか、と聞いたんです。最初は色よい返事じゃなかったので、「それじゃ『ヘラクレスの栄光』(※03)は?」とお願いして、そちらのタイトルで話が進んでいたんです。ところがある日突然、いきなりOKになりまして、じゃあやりましょう、と。最初は第1作と2作をPS2に移植して、それから新作を…と思ったんですが、そちらは断られてしまったので、新作だけをライセンスしてもらったんです。
――それは、いつ頃のことですか?
永嶋:2002年の6月頃ですね。で、僕が『メタル~』を作るには、スタッフとしてこいつ(武藤さん)が絶対必要だった。
武藤:実は当時、僕は普通のサラリーマンをしていたんですよ。コンピュータ関係の会社でSEをやってました。
元々、僕と永鳩はゲームの専門学校で一緒だったんです。『メタルマックス』は、らリアルタイムでプレイしてまして、その頃も思い出したように引っ張り出して遊んでましたから。不思議と、電池(※04)が切れなくて(笑)。元々ゲームの仕事をしたいから専門学校に行っていたわけだし、『メタルマックス』は好きだし、というわけで、じゃあそっちへ行こう、という話になったんです。
永嶋:やっぱり『メタル~』のシナリオをメインでやってもらうには、作品を熟知している人間が必要ですから。学生時代から、彼が『メタルマックス』をいかに好きか、よく知ってましたからね。
――スタッフの皆さんにとって、昔の『メタルマックス』シリーズは、どういう存在だったんでしょう?
永嶋:僕の場合は当時、『FF』とか『ドラクエ』を普通に遊んでいて、そこから『メタルマックス』に出会ったんです。その頃は普通にプレイしていたんですが、後になってみると、記憶に残っている。僕はあんまり過去を覚えていない人間だけど、それだけインパクトがあったんでしようね。遊んだのはかなり前なのに。
神綱:実は、僕は『メタル~』というタイトルを知りませんでした(笑)。
木村:僕はタイトルだけは知ってましたね。友だちの家で、遊んでいるのを見たくらいかな。あとで武藤の話を聞き、8割くらいは知らなかったんだな、と改めて思いました。
齋藤:僕は『1』と『2』をやってました。僕はゲームをクリアしないで終わることが多いんだけど、あれはクリアした、というハッキリした記憶が残ってます。
――では、版権を取ってすぐ、プロジェク卜開始、となったわけですね?
武藤:僕がこの会社に来た頃だから、その年の9月頃でした。
永嶋:うちはチーム制ではないので、このプロジェクトに合いそうなスタッフを希望して集めていくという形で進めたんですよ。
齋藤:実は、僕が一番最後に加わったんです。元々は営業の人間だったんですが、シンドイんで誰かプロデューサーの手伝いが欲しい、ということで。社内で『メタル~』に詳しい人間、ということでハイ、と。まさか、こんなシビアなプロジェクトとは思わなかったですから(笑)。
――どの辺がシビアだったんでしょう?
永嶋:いや、もうすべてが僕の見積もりの甘さなんですが、開発期間も、人数も、予算も…完全にRPGをナメてましたね(笑)。当初スタッフは10人ちょい、それが結果的にはサウンドを含めて社内で20数名、あと外部のグラフィックさんまで入れたら数えきれず、という大所帯になってしまいましたね。開発期間も2年半かかってしまいました。
――開発の進め方、コンセプトなどで悩まれたんでしようか?
永嶋:基本的には、新しいものを作ろうと考えてましたから。旧作には旧作なりの良さがあるんですが、旧作ファンだけをターゲットにすると、パイが狭い。昨今の、いわゆる普通のRPGを楽しんでいるユーザーさんにも向けて作っていかないと、本数が見込めない。本数が出ないと続かない…と。武藤の方にもそう伝えていたので、初期の頃はすごく右往左往したんです。実際、最初の半年間は、いったん作ったのに最初からやり直したりもしましたし。特に戦闘部分は…何回作った?
武藤:戦闘は5~6パターンくらい作ったんですが、結局は一回りして、最初に戻ってしまいました(笑)。
――初期の頃は、2Dパージヨンも考えられていましたね?
永嶋:当初は背景が3D、キャラは2Dでいこう、と考えていました。なぜ3Dに直したかというと、一つには物量の問題。キャラの人数が多いし、ドット絵師(※05)が…神綱と木村は描けるけど、社内に何人いるか、というレベルで、集めるのが困難だったんです。それに海外展開を考えると、やっぱり3Dで行くべきだ、という意見もありましたから。その決定も開始して3ヶ月目でしたから、遅れてしまいましたね。
神綱:まだデータを作る段階ではなかったんですが、最初の画面イメージとしては2Dのクォータービューを考えていましたから。本当なら、そこでイメージを変えるべきだったかも知れないですね。
たとえばラシードなんか、長い髪でマントをなびかせてるでしよう。ああいうのは3Dでは難しいんです。プログラマーさんに、マントのなびき方とか、いろいろと対応して頂いたんですが。
――キャラクターデザインに関しては、前作シリーズでの山本貴嗣先生(※06)のイメージなどは意識されました?
永嶋:実は、当初プロジェクトを立ち上げた段階で、山本先生にキャラデザを、とも考えたんですよ。ただ、『メタルマックス』のスタッフを集めて作るのであれば、それでもいいでしょうが、せっかく新しいスタッフで作るんだから、キャラも全く新しくして、新たな流れを作りたい、と思ったんです。
それにもう一つ。社内の人間をキャラクターデザイナーとして起用してみたい、という気持ちもありましたね。大きなプロジェクトで起用して、名前を売っていきたい、と。
で、神綱の絵はだいぶ前から見せてもらっていたんで、声をかけたんです。
神綱:基本的に主人公周りは、武藤の方からリクエストをもらっていたので、その線に沿って最初は描いたんです。で、ある程度できてからは、いくつかのキャラはそのまま、いくつかはいろいろとこねくり回して…と。
――山本先生との差別化で、特に工夫された点などはありますか?
神綱:武藤からもらったデザイン案には、前作を踏襲したようなのもありましたけど…たとえば主人公は赤いネクタイをしているとか、そういうのはそのまま進めましたね。
逆に女ソルジャーなんかは、昔の方向性だと自分では煮え切らないので、ガラリと変えました。ただ、山本貴嗣先生はすごく人気のある方じゃないですか。プレッシャーは感じましたね。逆に、武藤から具体的なリクエストがなかったキャラ、たとえばパトー博士なんか、こっちで好きなように描いたんで、後から「これ、前作にも出てるんだよ」と言われて、驚いたりとか。
――お気に入りのキャラは?
木村:神綱は、執拗に「おやじキャラ」を描かせろ、と(笑)。ビーンとか、特にお気に入りでしたね。
神綱:実は今回のファンブックの表紙も、一番最初に描いたのはビーンなんです(笑)。他にも大好きなキャラは多いですけど、やはりカエデですかね。とにかく巫女さん出したくて(笑)。名前まで決めてました。
永嶋:僕はセバスチャン。執事系が大好きですね(笑)。
武藤:僕はキヨウジとレッドフォックスですね。キヨウジは前半に出番がないんですが、あれはあえてそうしたんですよ。家を出たまま帰ってこなくて、くだらないメールだけをよこす父親にしたいな、と。で、最後にち•ょっとカッコいいことを言って終わり。
木村:僕はアランさんと、ネバーランドの子どもたちですね。ネバーランドは僕がデザインした、ということもあるんですが、アランさんは特にミニゲームではっちゃけてたんで。アレがなかったら、ただの才ッサンだったんですが(笑)。
武藤:ゲーム中は戦車の中にいるんだよね。顔は出てこないけど。
木村:最初は、戦車の上に載っけようか、という話もあったんですけどね。そうなると細かい演出ができないので止めたけど。
武藤:いいじゃない。砲塔の上でグルグル回ってても面白かったのに(笑)。齋藤は?
齋藤:僕はキャラじゃないんですが、トリ力ミです。プロジェクトに初参加した時「鳥居をどうしよう?」と相談していたんで。ああ、大変なんだなあ、という印象が強くて。あとは腹話術の人形、マサル君ですね。おお、偶然にオレと同じ名前がある、と(笑)。
――賞金首のデザインは、どなたが?
神綱:僕がやったのは、キャラ系の賞金首だけですね。
武藤:それ以外のモンスタ一系なんかは「こういう風にしてください」と、デザイナーさんたちにお願いしました。木村をはじめ、いろいろな人たちに。モンスターに関しては、デザイナー全員で作っていったという感じですね。ラフスケッチの中に、面白そうなものがあったら賞金首にしよう、というのも。ポリ•ギガンティアなんか、そうでした。
木村:あれは、最初に指定を間違えて、ただのザコキャラだったのに、やたらポリゴン数が多くなったんですよね。デ力いし、すごく細かく作られてた。ボディのへこみなんか、普通はテクスチャー(※07)で描くんですが、全部ポリゴンで作ってきた(笑)。関節は全部、球で作られてましたし。それで、こいつをちょっといじって、賞金首にしようという話になったんですよ。
――お好きな賞金首はいますか?
武藤:僕はキャラ系ではレッドフォックス。強くしてくれ、と言ったら、本当にメチャクチャ強くなって満足です(笑)。デザイン的にはB2マンタレイがお気に入りです。エイとかサメが好きなんですよ。前からB2ステルス爆撃機(※08)がエイに似てるなと思っていて。『メタル~』のモンスターのコンセプトに、生き物と機械•兵器の融合というのがあるので、ちようどいいや、という感じでしたね。今回の新しいコンセプトとして、空を飛ぶ敵というものがあるので、じゃあ一番強いヤツはこいつにしよう、と思ったんです。
――砂漠の上に、影が映りますね。なかなか、スリリングな演出ですが。
武藤:空を飛んでいて、影が地上に映る、という演出はやりたかったんですよね。何だろう?と思って影を追いかけると、エンカウントして戦闘に突入する。
姿が見える敵というのは、けっこう今回は多いんですよ。影が見えるのはハゲタカヤーボとマンタレイ、姿が見えるのはティアマットやダイダラボッチ。スレッジハンマーもそうですね、ヒレが見える。
あとはヤドカリフオートレス。ちょっと目にはビルにしか見えない。だったら普通、中に入るだろう…で、入ってみると、賞金首。
永嶋:僕のお気に入りだと、サルモネラ元祖かな。実はサルモネラ先生が好きなんですよ。最初はアイツが賞金首かと思っていた。
木村:あれは僕がデザインしたんですよね。いろいろなサルを描いてて…。
武藤:先生は面白かったんで、結局イベントキャラにしましたね。だからアイツは「元祖」より先にできてたんです。
木村:「元祖」は悩みました。とにかくデ力くしてくれ、と言われましたから。一時期、サイヤ人(※09)っぽくなって。
武藤:テストショットで戦闘画面に上半身しか入らない(笑)。キングコング並み。しかもコイツ風呂に入ってる。どないやねん、って。
永嶋:いっそ、風呂に入ったまま戦うのも面白かったですね(笑)。
神綱:僕個人としてはブレークダウンが一番かな。あとは列車強盗三人組のダルトンブラザーズですね。特に二番目のヒゲ。コンセプトは「ゴツい次元大介」(笑)。
そういえば、ブレークダウンを描いたとき、あいつがキリヤの親父なんだ、って聞かされてましたっけ?
武藤:最初に頼んだときには、その設定はなかったと思います。最初は血が繫がってない設定だったけど、いろいろ考えた挙げ句コイツを父親にしよう、ということになったんです。
永嶋:ちょうどあの頃、キリヤがネタキャラに移行していたので、いっそ賞金首を親父にしてしまえ、ってことになったんだよね。それに偶然だったんだけど、よくよくデバッグしてみると、キリヤはほとんど部屋から出ない。テーブルの下には酒がある、ロッカーを空けると金属バット。こいっ、本当は「ヒッキー」(※10)なんじやないか、と(笑)。
武藤:自分ではすごいメカニックだ、なんて言ってるけど、誰も見たことがない。どんどんスピンアウトして、二枚目じやなくなりましたね。ちなみに、ブレークダウンはタミオの兄弟子なんですよ。ゲームの中で出てこないのに、こうして裏設定を話すのは、本当はイヤなんですが。後付けの言い訳みたいだし、だったらゲームに入れろよ、って言われそうで。
――そこはフアンサービス、ということで。
武藤:ええと…実はタミオもこの世界ではすごいメカニックなんですけどね、兄弟子のブレークダウンの方がすごかった。
ただ、あまりに修理の道を究めすぎて、壊す方に興味が行ってしまった。機械の構造を知るためには分解する必要があるけど、オーパーホールとかしていくうちに壊す方が面白くなって、結局は自分も壊れちゃった。
で、あの世界では一番強い機械である戦車を襲って、戦車を壊す賞金首になってしまった。で、キリヤとお母さんを置いてどこかへ消え、お母さんは亡くなって、キリヤはタミオが引き取った、というわけなんです。
――なるほど、これは知って驚く新事実ですね!では木村さんのご推薦は?
木村:僕はレッドフォックスとアシュラベンケイ。特にベンケイは印象に残ってます。こっちの武器を奪うという仕様が、プログラマーさんにブツブツ言われました。いろんなパターンが考えられるでしよ?一度負けて奪われて、もう一度来たときにはどうなるんだ、とか。構造的にも、どうやって武器を出すんだ、という問題もあって。武藤両手の4種類と、背中のミサイル…合計で6種類もありますからね。
齋藤:僕はハゲタカヤーボ。実はずーっと、名前を「ハゲタカボーヤ」と覚えていたんですよ。戦闘機で、ハゲタ力なのに、なぜ「坊や」なのかな、ってずっと思ってた(笑)。
――なんか、キレイに才チがつきましたね(笑)。
――今回の『メタルサーガ』でも、最近のRPGの流行とは逆に、主人公はロをきかない、という文法を守りましたよね。
武藤:とにかく、しゃべらせたくなかったんですよ。主人公のセリフが「……」じゃ、無愛想に見えます、ってデバッグ会社さんの感想にも書かれましたが、そこは変えたくありませんでした。だから、実は「日記」も書くのがすごく苦痛だったんです。何度も潰してやろう!と思いました。だっていきなり、日記になると「主人公の主観」になるでしよう。気持ち悪くて。でも、結局「入れろ!」いう話になって。
永嶋:言ったのは僕なんです(笑)。だってこのゲーム、チュートリアルがないでしよう。今回のコンセプトは、好きにいろいろな所へ行ける。裏を返すと「投げっぱなし」とも取られてしまう。特に指針が序盤にないと、今のユーザーさんはついてきてくれない。だから、どうにかしてチュートリアルに代わるものを、ゲームシステムとして入れる必要があったんです。
武藤:イベント名と、達成度のパーセンテージが出るだけじゃダメなのかな、と思ったんですが。もちろん、それはそれで大変だけど。
永嶋:進行状況が分かるものを、というリクェストは出したけど、僕は「日記にして」とは言わなかったと思うけどね。
武藤:そうだっけ?ただ、最初はチュートリアル的なものもあったんですよ。ジャンクヤードに登場するケインというキャラ(※11)がいろいろと教えてくれて、ジャンク山のスカベンジャー戦まで付いてきてくれるはずだったんです。
木村:ただ、それを作ると時間もかかるし、問題も多いんですよ。
自由に動き回れるから、スカベンジャーのもとへ行かない場合もあるでしょう。そうすると、コイッどこまで付いてくるんだ?ってことになって、ちょっと考えただけでも、トラブルが発生する確率がすごく高そうに思えるんです。それに、レッドフォックスってキャラもいるんだから、イベントをそっちに集中させて、密にした方が良いだろうと思いました。
武藤:そういえば、レッドフォックスのキャラもかなり変わりましたね。最初はもっとアブナイ奴だったんです。賞金首とハンターの戦いに家族が巻き込まれ、そのために戦車に恨みを持つようになった。で、戦車を生身でブッ壊すために体を改造して、イカレてしまった。このゲーム、そんなキャラばっかしですね(笑)。
結局、そんなテイストが薄くなって、チュートリアルキャラ的な役割を負わされたんですが、最初と最後の登場だけになったのは残念でしたね。もっとも、しょっちゅう出てると、今度はうっとうしいキャラになったかも知れませんが。
――今回の新作で、新規ユーザーと前作のフアンとの反応は、いかがでした?
永嶋:ふたを開けてみると、旧作のファンも多かったですけど、意外に女性ユーザーからのハガキも多かった。普通のゲームと違って、30代や40代のユーザーが多かったのは確かですが、雑誌で見てはじめて知りました、という10代のメタルファンの方もいて、今の時代のRPGとしても、認められたのではないかな、と。もちろん、この1本で認められたのではなく、今後も続けていくことで裾野を拡げたい、と思います。
武藤:コンセプト的に今回は前作の『1』と『リターンズ』寄りだと自分では思います。ただ、どうも古いファンの人に強く印象が残っているのは『2』らしいんです。だから、雰囲気的に「ユルい」と言われることはありますね。
――新規ユーザーに対して、特に気をつけた点などはありますか?
永嶋:セールスポイント的には、困らなかったですね。元の『メタルマックス』自体が、同タイプのRPGとして今もほとんど出ていませんし。移動手段ではなく、乗り物に乗って戦うゲームですから。戦車は武器の一部、装備品レベルと密着したゲーム、というだけでも今の時代に十分目新しい。だから復活させたということもあります。今のRPGというと…もちろん僕も好きだし、遊びますけど、大抵はお話を読むための戦閼ゃ移動になっている。だったら、ゲームでなくてもいいじゃん、と。今のRPGのムービー演出も素晴らしい表現手法だとは思いますけど、コンピュータ一ゲームとしてのRPGって、何だろう。
昔のRPGは、もっとプレイヤー自身が話を作る、体験するという色が濃かったと思うんですよ。そういう部分は、もっともっと出したかったですね。
最初から僕は音声もムービーも入れない、と言っていたんです。けど営業や他のチームから「オープニングムービーはないの?」とか聞かれまして(笑)。それでも「入れなくていいです!」と主張しました。今回はそういうコンセプトで、という軸はぶらしたくなかったですね。
ただ一方で…ちよっと話がァレですが、売るのに困る…というので、店頭用のアニメは作って、プロモーション用にしましよう、と。これも最初から考えてました。
そうしたら、意外にも「本編にオマケムービーが入っていない!」という意見が来まして。僕としては、完全に別物にしたかったので入れなかったんですが。
武藤:1回クリアしたらムービーが見られる、なんて形で入れても良かったけどね。
齋藤:なんでムービーを作ったのに入れないの?という声は、けっこう抑えるのが大変だったんですよ(笑)。
――システム面での感想なんですが、コンボイになって、戦車が荒野を連なって走るのは壮観でしたね!
武藤:あれは、どうしてもやりたかったシステムですね。
永嶋:今のRPGだと、ポリゴン数の関係で、1つのキャラクタ一のクオリティを上げるために、数をたくさん出すのが厳しい、という制限があるんですよ。だからシンボルキャラクタ一が一人だけで歩くという形が基本になってます。でも、昔はドット絵だから(※12)関係なかった。それに、何にせよズラズラと並んで歩くのは気持ちいいですよね?それを反映したかったんです。せっかく戦車を手に入れたのなら、全部並んで、フィ一ルド上を一緒に走っているところが見たいよね、と。
武藤:1台しか表示されないのはイヤ、とプログラマーさんにかなり無理を言いました。
木村:ただ、戦車に関してはいろいろありましたね。4台だけじゃないでしょ?一度行って全滅したら、取りに行かなきゃいけないから、計8台は画面に出さないと。さらにそこから人が降りることもあるから、合計12キャラが必要、しかもどこにでも置かれる…とプログラマーさんから泣きが入って、生まれたのがレッカーさんですね。
武藤:どっか別の場所へ飛ばせばいいだろう、じゃあレッカーすれば…これは『メタル~』っぼいだろうと(笑)。
木村:それに、問題は駐車場でしたね。
永嶋:最後まで問題だったね。
武藤:っていうか、全部置けない!手に入れられる戦車の台数にくらべて、置ける台数が少ないから、全部置こうとすると、1台だけが変な場所に置かれる。だけど背景ポリゴンもギリギリだから、あれ以上場所を拡げられなかったんです。ハードとプログラマーさんに優しくないゲーム(笑)。
永嶋:実はレッカー場に全部の戦車とレンタルタンクを置いてフルパーツで、しかもナマリタケをつけると…すごく重くなった上(※13)ウインドウの色が化けちゃうんです。実際のゲーム中ではあり得ない状況ですけど、やっぱりテストしておかないとまずいですからね(笑)。
――今回、戦車のバラエティも、かなりゴージャスでしたね。
武藤:台数と車種は、全部自分が決めたんですが、当初はこれだけ増やせばいいだろう、と思ったんです。けど実際にテストプレイしてみると、なんでこんなに少ないの、と(笑)。
永嶋:最初は前作の倍で16台、と言ってたんだよね。実際、僕としてはやりすぎた、と思ってますよ。というのは、後の作品で困るんですよ。徐々に増やさないと。
武藤:次があれば、もっと出しますよ(笑)。
――今回、「働く車」(※14)シリーズは、バスとはしご車でしたね。
武藤:幻の『~ワイルドアイズ』(※15)ではパトカーを出す予定だったそうだから、こっちは消防車、と。単純なんですよ。
「働く車」系のカッコよさは、絶対に武器をつけないような車に武器をつけるところなんです。消防車には機銃をつけるとカッコいい、とか。それにイベントで、中に入れないビルに、ハシゴを使ってクリアするというアイデアも先にありましたから。それに実は、主人公が最初に手に入れるのはパイク、というアイデアもあったんですよ。
神綱:パイクだと、車両のポリゴンと人間のポリゴンを出さなきゃいけないので、無理だったんですけどね。
武藤:パイクが手に入ったら、サイドカーに犬を乗せられる、というのもやりたかったんですけどね(笑)。
――そういえば、今回は犬も4種類いますね。
武藤:戦車が増えたんだから犬も増やそう、と。実は「犬プレイ」というアイデアもあったんです。主人公と犬3匹…どころか、パーテイ全てが犬(笑)。面白いんですが、イベントはどうする?ということでボツ。
永嶋:主人公と犬3匹パーティは可能だったんですが、検証しきれないのでやはりやめました。開発の後半に出たアイデアだったので、チェックしきれるか不安だったんです。
――今回は、犬も丈夫でしたね。
武藤:強くしたかったんです。今までのシリーズでは、犬は死にがちだったので。本当に強くなっちゃいましたけど、まあいいか…と。あれは犬と言っていますが、本当は犬の形をした別のもの、という設定ですからね。調整に関しても、それほど難しくなかったですし。
永嶋:タイプは少々変えたので、あとはユーザ一さんが4種類のうちから見た目で選んでくれれば、という感覚でしたね。極端に強さを変えたら、みんな最強のを選んでしまうでしようし。
――ところで、皆さんのお仕事で、一番苦労された点といえば、何でしよう?
永嶋:僕は終始、大変でした(笑)。掛け持ちはするものじゃないな、と。うちは人数が少ないので、複数の作品を担当します。多いときで2~3本以上。チームの人にも迷惑をかけましたね。相談したいときにいない、忙しいときにいない、基本的にいない(笑)。
神綱:僕は単純に物量的な問題で。メインキャラクターが非常に多くて。サブキャラも多いけどね。顔絵があるキャラで60や70はいましたし、表情も4種類。しかも全衣装換えがありましたから。大変でしたけど、あれを換えないと僕の中で納得がいかなかった。
木村:最初は神綱が顔だけ描いて、体は別の人が描こう、と言ったのに「いや、僕が描きますよ」って。
神綱:当たり前じやないですか!
武藤:僕の場合は、システム面でもそうですが、シナリオの方で…書いては実装していくんですが、おかしな部分が出たり、スケジュール的に入らなかったりと、心苦しいことがいっぱいありましたね。まあ、もちろんそれで追加できたイベントもあったんですが。レイチヱルと結婚できるというイベントとか。
木村:僕の場合、一番大変だったのは、後半で神綱が販促物などで動けなくなって、僕の方にバグ修正の仕事が来たことですね。いろんな事件が起きて…たとえば飛ぶ敵が時々「脱走」するんですよ。範囲が決まってるはずなのに、へんな所に影が出現したり。それに、修正してると「ここのところも、こっそり入れておいてくださいよ」って、他の人から頼まれたりするし。
齋藤:逆に僕は、辛かったというとクオリティ的な部分を止めなけりやいけないところですね。プランナーさんはもっと深くしたい、デザイナーさんはもっと絵を増やしたい、というのを、時間の関係で僕がストップかけなけりやいけなかった、というのが辛かったです。
――では最後に、次回作『メタルサーガ2(仮)』(※16)についてお伺いしたいんですが…。
永嶋:え?いや…たぶん、武藤の頭の中には展開されていると思うんですが。まあ、さっき話した「バイク」は実現させたいね。
神綱:キャラ的に言うと、ミンチなんかは引き継ぐにしても、主人公周りのキャラは出ない、と思います。この辺は、シナリオの武藤に関わると思いますが。
武藤:まあ具体的に動いていないので、先のことは分かりませんが、ほとんど同じ人物は出ないでしょう。それは前のキャラが気に入らないからではなく、旧作からの文法です。同じ世界の違う舞台で、ちょっとだけゲストキャラの引き継ぎがある、そういう感じでやりたいですね。
内容的には、今回が『1』と『リターンズ』寄りでしたから、次回はちょっと、ハード目に展開をしたいですね。
システムで言うと、ミニゲームだけの話ですが「戦車レース」をやりたいです。今回は結果的にカットしてしまいましたが、戦車について、コレは戦闘用に使おう、コレはレース用にチューンナップしよう、といった使い方ができるように。
神綱:キャラに関しても、タッチは変えたいですね。雑誌に描いたような、少々シリアス目のタッチで、頭身を上げたい。今は5頭身ですから。ただ、上げた分だけ逆に難しくなるんですけど。
木村:僕は…やっぱりさっき話した「犬プレイ」を実現させたいですね。戦車の車種は知らなくても、犬は知っているとか、愛着があるという人は多いですから。それに、犬だけでなくネコも連れて行ければ…とか。
武藤:実は「動物村(仮)」という場所があって、動物好きのオジサンがいるんだよね。そこからいろんな動物を連れて行ける。それで…。
神綱:ダメだよ!それは秘蔵のネタなんだから、ここで言っちゃ!!
齋藤:僕は…次はどの部署にいるか分かりませんけど、作るにせよ売るにせよ、僕がやらせて頂きますから。とにかく次回作も、1本でも多く売りますよ!!
――どうも、ありがとうございました。
(※01)データイース卜
個性的なゲームを作る老舗ソフ卜ハウスとして、ファミコン時代より名をはせる。代表作は『ヘラクレスの栄光』シリーズ、『探偵神宮寺三郎』シリーズ、『マジカルドロップ』など。1999年に業務不振により和議申請、再建を目指していたが2003年7月、破産宣告を受ける。
(※02)メタルマックス
これまでのシリーズタイ卜ルは以下の通り。
『メタルマックス』(1991年 発売元:データイースト FC)
大破壊後の世界を舞台に、戦車を駆つて!戦うという当時としては画期的なシステムを搭載したRPG。特に、その自由自在なプレイシステムは、熱狂的なファンを獲得した。
『メタルマックス2』(1993年 発売元:データイースト SFC)
前作の自由度を引き継ぎつつ、人間3+犬1匹というパーティ構成や、改造による戦車の強どの新システムを追加。ス卜ーリーラインとは全く無関係サブシステムも話題を呼んだ。
『メタルマックスリターンズ』(1995年 発売元:データイースト SFC)
第1作のリメイク版。戦車のパーツ改造など『2』で実現した新システムも採り入れられている。
『メタルマックス2改』(2003年 発売元:ナウプロダクシヨン GBA)
『~2』のGBA用移植版。賞金首やレンタルタンクのバリエーションなども追加され、話題を呼んだ。
(※03)ヘラクレスの栄光
データイース卜から発売された名作RPGシリーズ。1987年の第1作『闘神魔境伝説ヘラクレスの栄光』を皮切りに1994年『~IV神々からの贈り物』まで、全5タイ卜ル(FC版2本、SFC版2本、GBA版1本)がリリースされた。
(※04)電池切れ
当時のファミコン力セッ卜は、バッテリーパックアップ式で、カセット本体に水銀電池が内蔵されていた。
(※05)ドッ卜絵師
ドッ卜グラファーとも呼ばれた専門職。文字通り、コンピュータグラフィクスの「点描職人」で、3Dモデリンク全盛の今日では、人材が払底しつつある。
(※06)山本貴嗣
『メタルマックス』シリーズの初期から、キャラクターやグラフィックイメージ全般を担当した人気マンガ家。
オリジナルコミックとして、『メタルマックスMOMO』も著した(美術出版社より刊行の単行本『M4』に収録)。
(※07)テクスチャー
3DのCGで、ポリゴンの表面に貼り付ける「模様色紙」のようなもの。
(※08)B2ステルス爆擊機
独特な形状をしたアメリ力軍の現行戦鬪機。胴体部分や尾翼を持たないため、「全翼機」などと称される。「ステルス」とは「隠密」の意味で、その名のとおり、いかに発見されず敵陣に忍び込めるかを主眼において開発されている。
(※09)サイヤ人
鳥山明氏の漫画『ドラゴンポール』に登場するキャラ。ここでは、「めちゃくちゃ凶暴で巨大なサル」を指す。
(※10)ヒッキー
いわゆる「引きこもり」を指す。
(※11)ケインというキャラ
本書の47ページにイメージイラス卜が掲載されている。
(※12)ドッ卜絵だから~
2D表現の場合、キャラクターはオブジエ(スプライ卜)で表示されていたことを指す。ただし、FC時代など、横1ラインに表示能力以上のキャラクターが並ぶと、画面がチラついてしまつた…という事実は、オールドフアンならご存じの筈。
(※13)すごく重くなった~
ここでは、戦車の自重が増えたのではなく「ポリゴンの表示限界に達したため」画面処理が重たくなった、ということ。
(※14)「闇く車」
過去の『メタルマックス』シリーズでは、救急車、ハーフトラック、パンなどが登場。こういった戦車以外の車種の改造に血道を上げるマニアックなファンも、一部に存在した。
(※15)ワイルドアイズ
『メタルマックス ワイルドアイズ』のこと。
DC版の『メタルマックス』として、アスキーより発売される予定だったが、諸般の事情により発売中止となった。
(※16)メタルサーガ2
言うまでもないが、現在(2005年11月)時点では、まだ発売される予定はない。
生物と兵器の融合、という『メタルマックス』シリーズ伝統のモンスターコンセプトは、今回も生きています。
B2マンタレイなんか、その典型。僕のお気に入りなんですよ(武藤)
キリヤはほとんど部屋から出ない、
テーブルの下には酒、ロッカーを空けると
金属バット……二枚目の設定からどんどんスピンアウトして「ヒッキー」みたいなキャラに化けてしまいましたね(永嶋)
最初に手に入るのは「バイク」、というのは実現させたかったけど、
車両と人間、両方のポリゴンを表示しなくちゃならなかったので
現しなかった……残念でしたけど(神綱)